海外在住者が相続放棄する場合の注意点
グローバル化が進み、仕事や家庭の都合で海外に居住する方も増えてきました。
日本にいる親が死亡し、相続が開始した場合には、海外在住者の相続人としてはどのような手続が必要になるのでしょうか。
特に、相続放棄をする場合には期限が決められていますので、具体的な対応を知らなければ相続放棄をする機会を失ってしまう可能性もあります。
今回は、海外在住者に向けて、海外在住の相続人が相続放棄をする方法について詳しく解説します。
1 相続放棄ができる人について
そもそも海外在住者が相続放棄をすることができるのでしょうか。
まずは、海外在住者の相続放棄の可否について説明します。
⑴ 海外在住者も相続放棄できる
民法915条では、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」と規定しています。
このように民法では、相続放棄をすることができる人を「相続人」と規定しており、相続人の居住地において区別を設けていません。
そのため、海外居住者であっても当該相続において相続人に該当する場合には、相続放棄をすることができます。
⑵ 相続放棄の期限も日本にいる場合と同様
海外在住の相続人も、日本に居住している相続人と同様に3か月の期間制限がありますので、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に相続放棄の手続を行う必要があります。
相続放棄の期限の起算点は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から」ですので、相続人の死亡を知ったときまたは先順位の相続人が相続放棄をしたことを知ったときが起算点となります。
海外在住者の場合には、日本に居住している相続人に比べて被相続人の死亡を知るのが遅くなることがありますので、その意味では、日本に居住する相続人よりも起算点が後ろになることがあります。
2 海外在住者の相続放棄のやり方
海外在住者が相続放棄する場合には、日本に居住する相続人とは異なる部分もありますので注意が必要です。
⑴ 必要書類の収集
相続放棄の手続を行うためには、一般的には、以下の書類を収集する必要があります。
・ 被相続人の住民票除票または戸籍附票
・ 申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本
・ 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本
・ その他被相続人と相続人の関係性がわかる戸籍謄本など
海外在住者の場合には、上記の一般的な書類に加えて、以下の書類も必要になります。
・ 在留証明書
・ サイン証明(署名証明)
在留証明とは、海外在住者の相続人が現住所地を証明する書類です。
相続放棄の申述書には申述人の住所を記入する欄がありますので、海外在住者は、在留証明書の記載を参照しながらその住所を記入します。
サイン証明(署名証明)とは、日本における印鑑証明書の代わりになる書類です。海外では、日本のように印鑑を利用する文化がなく、サイン(署名)をするのが一般的ですので、自己のサインであることを証明する書類になります。
サイン署名については、すべての家庭裁判所で必要になる書類ではありませんので、提出が必要かどうかは申立てをする裁判所に事前に確認するようにしましょう。
⑵ 家庭裁判所への申立て
相続放棄の申述書と上記の必要書類を被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出して、相続放棄の申述を行います。
家庭裁判所への書類の提出は、郵送でも行うことができます。
海外在住の相続人の方は、相続放棄の手続のためにわざわざ日本に帰国することも大変ですので、郵送による方法で申立てをするとよいでしょう。
⑶ 相続放棄の申述に関する照会と回答
相続放棄の申述を行うと、その後、家庭裁判所から相続放棄の申述に関する照会書が送られてきます。
相続放棄の申述に関する照会は、相続放棄の申述が申述人の真意によるものであるかを確認する目的や法定単純承認事由に該当する行為の有無を確認する目的でなされるものです。
相続人は、照会書の照会事項に沿って回答をし、回答書を家庭裁判所に送付します。
回答書の内容を踏まえて、家庭裁判所の裁判官が相続放棄の申述を認める場合には、相続人に対して「相続放棄申述受理通知書」が送られ、手続は終了です。
海外在住者の場合には、申立時に国際スピード郵便(EMS)用のラベル2通を同封しておくことによって、海外の住所地宛てに「相続放棄の申述に関する照会書」および「相続放棄申述受理通知書」を送ってもらうことができます。
国際スピード郵便は、世界120以上の国や地域で利用できる郵便手段ですので、ほとんどの国で対応することができますが、海外在住者の居住する国によっては、国際スピード郵便を利用することができない場合があります。
そのような場合には、共同相続人に協力してもらってやり取りをすることになりますが、具体的な方法については、申立て前に裁判所と協議をする必要があります。
3 相続人に海外在住者がいる場合には弁護士に相談を
相続人に海外在住者がいる場合には、通常の相続放棄に比べて複雑な手続になりますので、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
その理由は以下の通りです。
⑴ 必要書類の収集をサポートしてもらえる
海外在住者の場合には、海外にいる状態で日本国内の市区町村役場から戸籍謄本や住民票の写し等を取得する必要があります。
しかし、これは非常に手間がかかる手続です。郵送で取得した戸籍謄本を確認して、さらに別の市区町村へ戸籍謄本の請求をするということを繰り返していると、必要書類の収集だけで相続放棄の期限である3か月を経過してしまう可能性もあります。
相続放棄には期限がありますので、海外在住者が相続放棄をするためには迅速な対応が必要になります。
弁護士であれば日常的に相続問題を取り扱っておりますので、海外在住者からのご依頼であっても迅速かつ適切に対応することが可能です。
⑵ 裁判所への申立てをサポートしてもらえる
相続放棄の手続に不慣れな方が相続放棄の申述書の作成や裁判所とのやり取りを行うのは非常に負担になります。
弁護士に依頼をすることによって、必要書類の収集から裁判所への申立てまで、相続放棄に関する一切の手続を任せることができます。
⑶ 照会書に対する回答についてアドバイスをもらえる
家庭裁判所から送付される「相続放棄の申述に関する照会書」は、単に相続放棄が申述人の真意であるかどうかを確認するだけでなく、法定単純承認事由に該当する行為の有無を確認するという目的があります。
そのため、不適切な回答内容であった場合には、最悪のケースでは、相続放棄の申述が受理されないという可能性もあります。
弁護士に依頼をしていれば、裁判所から届いた「相続放棄の申述に関する照会書」への回答について、丁寧にアドバイスをもらうことができますので、記載内容の不備によって相続放棄の申述が受理されないという事態を回避することができます。
4 海外在住者の相続放棄はご相談ください
相続放棄は、海外在住者であっても日本に居住する相続人と同様に行うことができますが、提出する書類や手続は、海外居住者という性質上異なる部分もあります。
海外居住者の相続放棄の手続は、一般的な相続放棄の手続と比べて複雑になりますので、期限のある相続放棄の手続を迅速に進めるためにも専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
海外在住の相続人の方、または相続人に海外在住者がいるという方は、お早めにご相談ください。